敵失と筆誅

 「敵失」とは今さら言うまでもなく、野球などで相手側の失策のことだ。たとえば「相手側三塁手のエラーで走者が一気にホームをついて先取点をあげた」などという場合に使う。といって、今ここでそんな誰にでも分かるつまらぬ知識をひけらかすつもりではない。要するに最近の政治家に対するマスコミの姿勢あるいは戦法が、まさに「敵失で点を稼ぐ」という言葉がぴったりだということを言いたかったのである。つまり争いごとが嫌いなのか、それとも相手方の反撃を恐れてか、間違いや不正を正すことにやたら及び腰であるのが気になってしょうがないということである。

 そう橋下大阪市長の一連の舌禍騒動のことを言っている。実は最初の報道から注目していたのだが、あまりに下劣で品性の卑しさ(同じことか)丸出しの発言なので論評する気にもならなかったのだが、報道関係者の反応が実にノロかった。私のように余りにアホらしくて相手にしたくもなかったのならいいが、どうもそうではなかったようなのだ。もともと「行列のできる」なんとかというテレビ番組で名が知られた男があれよあれよという間に知事や市長になったり「維新の会」共同代表になったり、なんとも軽薄極まりない政治劇よ、と見ていたが、かれ調子に乗りすぎていまや四面楚歌。この期に及んで、私ゃマスコミにはめられた、などととんでもない言い逃れをしたらしいが、もともと下らない発言をぶら下がり(って言うですか)の何も考えない体力勝負の記者たちに報道してもらって名を上げてきたんじゃないすか? それを何をいまさら。
 
 どこかの大新聞の会長(でしたっけ?)の周りを大勢の報道人が追い回すの図を見たときも、あんな馬鹿を追い回すから調子に乗るんですわ、放っておいたらどう? ありり、僕ちゃんの後をだれも追ってこない、どうったの?くらい思わせておけばいいにのに、と思ったが。

 話を戻すと、海外から橋下発言を問題視する声が大きくなるのを待ってたのか、このところ新聞・テレビで橋下(これから先使わなくなると思うけど、ここで何回も使うので、いま橋の下の橋下という苗字を辞書登録したところ)批判がやたら賑やかになってきた。敵失で点を稼ぐのに加えて、今度は「尻馬」に乗るマスコミのお粗末。

 ここで死語になりつつある懐かしい言葉を出そう。そう「筆誅」である。類語に「天誅」がある。つまり天に代わって罰を与えることである。そりゃー貞房氏のように名誉毀損すれすれの言葉を使っちゃっちゃ公器に禄を食む記者氏としてはまずかろうが、しかしそこは君、筆一本で勝負する人間なら、正しい言葉遣い(?)で相手をギャフンと言わせるだけの迫力ある文章ぐらい書いてくださいよ。昔はいましたよ、切っ先鋭い筆の達人が。

 今回は幸いに海外から執拗かつ真っ当な批判があったからいいようなものの、これからはアホな政治家のアホな言動を間髪入れずに正していく頼もしい記者魂を見せてくださいな、お願いしまーす。

 実はこのところ不如意なことがいくつかあって、胸塞がる日々が続いてました。ところが昨日、『原発禍を生きる』のスペイン語版がようやく出版され、それに併せてスペイン・テレビでその紹介番組が近々放送されるとの嬉しいニュースが届き、ようやく元気が出てきたところ。で、いざモノディアロゴス再開と思ったのですが、このところ溜まりに溜まったものを一度吐き出す必要があって、以上のようなボヤキを連ねたわけ。これですっきり。さ、明日から頑張ろうっと。

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佐々木 孝

佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴い父祖の地・福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」の名を冠したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。洗礼名フランシスコ。
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2 Responses to 敵失と筆誅

  1. 上出勝 のコメント:

    佐々木先生

    NHKの番組の放映日と、このブログでも観られるということをまわりの人たちに知らせたところ、何人か観てくれたようでした。

    ところで、せっかく「すっきり」されたところを蒸し返すようで申し訳ないのですが、橋下市長の件で、少しだけ言わせて下さい。

    私は彼と同業で、いわば、「論争」をメシの種としています。そういう私から見ると、彼の「逃げ方」はだいたいのパターンがあるように思えます。
    まず、①自分の主張が通らないとみると、相手を攻撃します。理解不足だ、誤解だ、無知だと攻撃する訳です。次に、②都合が悪くなると、争点をすり替える。違う問題を提起する。
    ③それでも、自分の主張が通らないと、論争自体が意味がない、として、収束させようとします。④なおも、相手が反論してくると、そういう反論、存在自体を認めない。
    今まではだいたいこういうパターンでやって来たと思います。

    もちろん、実際の裁判でこういう論争のやり方では通用しません。相手も弁護士で理屈を言うのが商売ですから、雑駁な「論理」では通りません。裁判では負けてしまいます。

    しかし、残念ながら優秀な記者と言うのは少数です。「筆誅」を加えるには、深く広い知識や鋭い問題意識が必要ですが、そういう記者はなかなかいないのが現状だと思います。多分現場の若い記者は「論争」というものをしたことがあまりないのではないかと思います。ですから、橋下市長の「論理」にも対抗できないのではないかと思うのです。
    私はこれまでいろいろな事件で記者の取材を受けましたが、彼らの多くは、「情報産業会社」の会社員でしかすぎません。記者クラブ制度に安住している人が大半です。それなので、私は大手マスコミの記者にはあまり期待はしていません。
    ただ、少数の優れた記者がいることも事実ではありますし、フリーの記者はちゃんと問題意識を持っている人がほとんどですが。。。

    橋下市長の歴史的無知はいまさら言うまでもないことですが、私が今まで一番驚いたのは、文楽の演出に口出しをした時です。私は文楽好きなのですが、呆れかえると同時に、かわいそうになりました。こういう楽しみを知らないのですから。
    ようするに、「そういう人」なんだと思うしかないですね。

    ついでに、「従軍慰安婦」のことですが、「日本軍が関与した証拠がない」と盛んに言われていますが、いろいろ「証拠」はあるわけです。一つだけ挙げます。
    上野千鶴子さんと小熊英二さんが鶴見俊輔さんにインタビューした本があるのですが、その中で、鶴見さんは「軍属」として慰安所の設置に従事したことをかなり細かくお話になっています。軍属ですから、当然軍の命令で従事したわけです。軍が直接慰安所を「経営」していなくとも、業者は軍の便宜がないと現実には経営はできません。「慰安」のチケットというか配給券も軍内で軍が兵隊に配ったわけです。軍の規律の下で。

    それと、先日、橋下市長に面会予定だった元従軍慰安婦のおばあさん二人は、当時、13歳と14歳です。この年頃の女の子が自分の意志で「売春」を商売にしようとして遠方から出て来たとは到底考えられません。

    もう一つ。
    戦争での性暴力はどこでもあったことはそのとおりだと思います。売春婦が軍隊の後をついて行ったというのも事実だと思います。確か、『戦争と平和』にもそういう記述があったかと記憶しています。しかし、軍が組織として制度としての「慰安所」を連れて歩いたというのは、あまり例がないと思います。「軍に慰安所はつきもの」とも言っていますが、日本が戦争をしていた当の相手の中国は共産党軍も国民党軍もこのような慰安施設は持っていませんでしたね。アメリカも当然そうですが。
    沖縄戦下、日本軍はガマに逃げ込みますが、朝鮮人慰安婦も連れて行き、ガマの中を区分けして、そこでも「慰安所」コーナーをつくっています。私は実際にその跡を見て来たのですが、軍国主義というのは凄まじいものだと思いました。

    もう止めます。こういうことを話題にするだけで気分が滅入ります。
    せっかくご気分がよくなったと言うのに。。。申し訳ありません。

    • 佐々木 孝 fuji-teivo のコメント:

      上出さん、さすがプロの弁護士さん(といってアマチュアの弁護士はいないと思いますが、いたとしたらサギ師)、初めまさか逆に筆誅を加えられるのかとひやひやしましたが、読んでいくうちそうでないと分かってほっとしました。さすが同業者らしく鋭い視点で橋下市長のいかさま論法を見事分析そして解説、これでさらにスッキリしましたよ。ありがとう!この種の話題があるときは今後とも押っ取り刀で助けに来てください。

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