静かな収束

昨日のこのブログのタイトル「善意の忠告」やその内容を読んで、おやおやちょっとばかり悲壮感が漂っているのでは、と思われた方がいるかも知れない、悲壮感?そう、実を言えば、昨日は終日暗い気持ちで過ごした。簡単に言えばやり場のない怒りのようなものが底流していた。そんな感じをいつか持ったな、と思い返してみて、原発事故直後の或るやり取りを思い出した。

朝日新聞に載ったばっぱさんと愛と私の写真入りの記事を見て、長い間付き合いのあった、そして敬愛していた先輩とその友人から、そんな変に突っ張っていないで、せめて愛ちゃんだけでも避難させたら、なんなら東京の私たちのところで引き取りますよ、との連絡が入ったときに感じたものに似た感情である。相手が善意であるからこそ感じた不思議な怒りの感情。正面衝突は避けたが、やんわりと(慇懃に?)断わった。それ以来音信が途絶えたままである。

もちろんこれまでもさまざまな人間関係の中で行き違いや争いめいたものがなかったわけではない。たぶん歳のわりには、そして社会的な立場(?)のわりには、喧嘩っ早い類の人間かも知れない。これは小さいときからもそうで、帯広での少年時代、親類の者から「いやだよこの子、映画館に連れてっても、同年輩の男の子と眼を合わせるたびにケンカするんだもの」と言われたこともある。殴り合いの喧嘩は、今は亡き阿部君と、例の夜の森公園でのそれが最後だったが。

ともかくこれまで正面衝突を性懲りもなく繰り返してきた。つまり「瞬間湯沸し器」であった。もちろん、コワイおにいちゃんや理屈が通らない相手と争うことは注意深く避けてきた。そうでなかったらこの歳まで怪我もせずに生き残ってこれなかったに違いない。そしてそうした正面衝突はほぼ百パーセントいい結果を生んできた。つまり相手とはそれまで以上の親しい、とは言えないまでも、互いを認め合う良好な関係が生まれたのである。もちろん例外もあって、最後の勤め先の教授会で、理事長に向かって「あなた責任とって辞めなさい」と言ったが、さすがにこれは完全に無視された。

いやいや我が喧嘩一代記をご披露するつもりなどなかった。言いたかったのは、あの震災以後、これまでとはいささか心持ちが変わってきたと言いたかったのである。要するに、以後の関係がどうなろうと頓着しないという風になってきたのだ。人間すべて分かり合うなんてどだい無理、だったら物別れになってもショーナイ、という風に。

先ほどの先輩の言い草は、だからある意味で私の姿勢を言い当てていたわけだ。つまり「突っ張って」生きている。しかしもう少し正確に言えば、それはオフェンシブに突っ張っているのではなく、いうなればデフェンシブに突っ張っている。だってそうでしょう、原発事故に痛めつけられ、四六時中世話をしなければならない連れ合いと日々綱渡りのような生活をしてるんですよ。もっと言えば、自分なりにいろんな可能性を勘案した上で、こうだと思ったことをギリギリ死守しようと生きている。

あゝついでにS兄からの質問に答えます。最近は美子を一人置いて外出ができるようになってます。つまり残念なことに、最近は椅子やベッドから一人で立ち上がれなくなってしまったのであります。長時間だと不安になるでしょうから、最長半時間程度なら私一人で外出できるようになってます。もちろんいつかまた一人にしておけないようになって欲しいと願ってはいますが、さあどうなりますことやら。

で、先ほどの話を続けます。デフェンシブに突っ張っているというのは、瞬間瞬間をギリギリに生きている、その時その時を悔いが残らないように生きている、なんて偉そうに言えたものじゃないですが、基本そういうことです。もっとカッコよく言えば、末期の眼で、うーんそれもカッコ良すぎるなー、つまり切羽詰って生きてるんであります。哲学的(神学的?)に言えば終末論的に生きている? かな。

つまりいまさっき、カッコ良く、なんて言葉を使ったが、実はそのまったく真逆の姿勢で、そう限りなくカッコ悪く生きてるんです。別言すればカッコなど気にする余裕もなく「なりふりかまわず」生きてる、ということです。

ちなみにモノディアロゴスの鼻祖ミゲル・デ・ウナムーノの第三子ライムンドは、生後間もなく脳膜炎を患い、次いで脳水腫へと進み、動くことも話すこともできなくなってしまった。ウナムーノはこの子が七歳で死ぬまで、そのベッドを机の側に置き、そこで執筆することが多かった。彼の書くものが終末論的な雰囲気を漂わせているのはそのためである。

もちろんそんな大先輩に自らをなぞらえようなどという太い了見など持ち合わせておりません。終末論的思想なんて大層なことは言えませんが、しかしはっきり言って今の私に怖いものなんて一つもないことだけは確かです。いやウソだわ、怖いおにいちゃんや苦痛は怖いっす。

老境の理想像は、笠智衆さんだったが、おっといま字を確かめようとEX-wordという電子辞書を調べたら、なんと彼は八年前に亡くなられたそうだ、合掌。つまり彼のような枯淡の境地にたどりつきたいと願っていたが、まず体型からして無理だし、瞬間湯沸かし器は一向に収まらないし、文字通り理想のまま留まってますです。

いや本当に言いたかったことは、私も被災者の端くれ、自分でもそれと気づかないときもありますが、ギリギリの線で必死に生きてるんです。だから時おりデフェンシブに突っ張っても見逃してください。南相馬の実情に対してはいろんな見方ができるでしょう。小池某とか児玉某のように、福島県全域を見捨てなければならないと言う科学的(?)結論を出すことも可能でしょう。でも私は町に戻った四割の人たちと運命を共にしたいですし、子供たちの健康被害にしても、たとえば甲状腺ガンが将来万が一発症するにしても、それは現代医学では治療可能なものであり、決して死病ではなく…、

突然ですがここで広島大学原爆放射線医科学研究所副所長・稲葉俊哉氏の次の言葉を引用して終わりにします。いや、これに対する反証やら異見はあるでしょうが、しかし申し訳ありませんが私には先ほど来申し上げてきたように、論争するつもりもその気力もありませんので、どうぞご悪しからず。

「もうひとつ、チェルノブイリとの大きな違いは、チェルノブイリは内陸部で、日常からヨウ素不足の状態であるということが挙げられます。この地域ではヨウ素不足が原因の甲状腺腫という、日本ではあまりみられない病気の多発地帯です。ヨウ素不足の甲状腺は、ヨウ素131をより多く取り込もうとします。
実は、ヨウ素131は、原子炉の中にだけあるのではなく、病院では広く用いられています。甲状腺の病気の検査や治療のため、ヨウ素131を飲むのです。それでも、これまで発がん性が疑われたことはありません。
このような理由から、私は今回の福島原発事故で、甲状腺がんの子どもが増加する可能性は低いと考えています。もちろん、十分な追跡調査が必要ですが、お子さんをお持ちの方には、あまり神経質にならないようにと、申し上げておきたいと思います。」

あっ大事なことを言い忘れてました。今日息子からメールが来て、動揺などしていないから心配なく、と言ってきました。いやもっと大事なこと、健次郎叔父とも、そして彼を介して、愛する我が従弟とも、行き違いは完全に修復していることを最後に申し添えておきます。お騒がせしました。

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佐々木 孝

佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴い父祖の地・福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」の名を冠したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。洗礼名フランシスコ。
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1 Response to 静かな収束

  1. 宮城奈々絵 のコメント:

    先日、友人が「とても励まされたから」と言って、ある文章のコピーをくれました。劇団曼珠沙華という劇団がチェルノブイリに公演しているのですが、そこで今回チェルノブイリの子供達から福島の子供達に「私たちは生き残った!あなたたちもがんばって」というメッセージを預かったそうです。
    先生も23日のblogにどんな状況でも「生き抜く」覚悟について書かれていました。
    不思議な呼応を感じます。私がすぐにズドンとへたばってしまうのは、どんな状況でも「生き抜け!」という自分への覚悟が据わってないのかも…と思いました。
    今をしっかり見つめて、家族をしっかと愛して、笑顔で「生き抜いて」いきたい!そう思います。
    先生が御自分の思いを包み隠さず書いて下さることで、学んだり励ましを頂いたり…、感謝しています。このblogに辿りついた幸運にも感謝です。
    先生の愛する御家族に、たくさんの笑顔と幸いがありますように…。

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