城外からの報告一つ

三月二十九日午前八時十分 晴れ
 籠城十八日目でしょうか。なんだか事故以来三日しか経ってないような感じがしている。さて今朝七時現在の例の数値は0.93マイクロシーベルト/時、ずっと低いところを推移している。今朝は、城外でどんなことが起こっているか、一人の報告を匿名で、しかも事前に了解を得ずご紹介する。M.Mさん許してください、もしお嫌でしたらすぐ撤去しますから。

「こんばんは!M.Mです。
 今朝お電話をいただいたとき、荷物を送ることができるようになったとうかがい、たいしたものではないのですが、お送りしました。食料は十分あるとのことでしたので、ビタミン剤(人間はストレスがかかると普段よりもビタミンを多く消耗するのだそうです)を少しと、ドッグフードとキャットフード(避難する際に置き去りにされた犬や猫のために役立てていただければ幸いです)です。郵便局の窓口の話ではいつ届くかわからないそうですが、近日中に届くように願っています。

 ブログを拝読すると、先生方の運動が功を奏して、南相馬市の風評被害による孤立状態が少しづつ改善されているとのこと、安心しました。それにしても屋内待避勧告や、米国の”原発から80キロ圏外への退避勧告”が出たとたんに物流が途絶え、政府のフォローもなく、市民の基本的生存そのものが脅かされるとは、この国はいったい誰のために存在しているのでしょう。本当に一刻も早く元の生活が戻ってくることを願っています。

 何か出来事が起こると、その現場では刻々と状況が変化し続ける一方で、それを報道するメデイアが流すニュースは、「今現在並行して起こっていること」というより、せいぜい早くて「1,2日前に起こったこと」つまりその後追いであって、「現在」はすでに別の状況に推移しているーー少なくともその大半はーーということが今回のことでよくわかりました。未だにテレビや新聞の報道では実態がつかめない気がとてもしています。

 私などは地震以降、自分が宙に浮いているような感じで、朝2回も顔を洗ってみたり、予約をすっぽかしてみたり、とんちんかんなことばかりしています。他にもそのような人はいるようで、先日、近所で横断歩道の青信号を待っていたとき、地面に白い線を発見しました。たどってゆくと、こちら側から横断歩道を横切り、向かいの歩道にずっと続き・・・、何とそれはお米でした。気の毒にも、品薄のお米をようやく手に入れた人が、何かの拍子に小さな穴を開けてしまい、気づかぬまま(もしかしたら自宅まで?)白いラインを引いてしまったようです。

 話はかわりますが、先日インターネット上で素敵な詩を見つけました。もうすでにご存じかもしれません。García MárquezのCarta de despedida と BorgesのInstantes です。どちらも同じテーマで内容も似ているのですが、この歳になって読むと身にしみました。お気が向いたらご覧になってください。

 最後になりましたが、奥様によろしくお伝え下さい。まだ冬のような寒さが続いています。くれぐれもご自愛下さい。そして、何かお手伝いできることがありましたらご連絡下さい。とりとめのないことを書きましたが、この辺で。」

佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴い父祖の地・福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」の名を冠したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。
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