書痴の極み

 そろそろ革のジャンパーを買い換えようかな、と思っていた。寒いときに重宝してきた、それなりに愛着のある牛(?)革のジャンパーだが、かなりの重さがあり、着るときにまるで甲冑を着けるときのような(といって甲冑など着けたことはないが)重量感が年寄りにはうっとうしく思えるようになってきたからだ。それで先日来、軽いのに意外と暖かなので愛用しているズボンとベストと同じく、この際、中綿の入ったジャンパーに買い換えようと思ったのだ。

 スーパーで見てみたがあまり気に入ったものがない。駅向こうの量販店に行ってみた。セーターなどを着込んだ上に着るのでLを探したのだが、あいにくMしかない。念のため試着してみたらこれが意外とゆったりしている。なによりも安いのが気に入った。税込みで一六八〇円である。もちろんポリエステル製で中国製だが、モスグリーンで裏地が赤に近いオレンジで、仕立てもなかなかよさそうだ。レジに持って行ったら割引セールなのか(安い分にはいらぬ詮索はしない)レシートを見ると一二三〇円になっていた。

 今もそれを着て机に向かっているのだが、寒い廊下の書斎(?)でも、足元に400Wの電気ストーブがあればじゅうぶん寒さを防げる。何よりも軽くて肩が凝らないのがよろしい。

 以上はジャンパーを買い換えた表向きの理由。実はもう一つの理由も重要である。つまり最近わが家では革製品が底を突いていて、古本の装丁はもっぱら布だけでやっているのだが、そろそろ背革がほしくなってきたのだ。今まで着ていた牛(?)革のジャンパーからかなりの革が取れる。それにこの革ときたら、適当に古びていて、背革にすると重厚豪華な特装本ができあがるというわけだ。

 ところで今日は、そのジャンパーについて新しい知識を手に入れた。つまりジャンパーという言葉は、どこで知ったか、アメリカ軍の落下傘部隊兵士の服、つまり飛行機からジャンプする兵士が着用した服から来た言葉だと思い込んでいた。爆撃機(ボンバー)の乗務員が着用していたボンバー・ジャケットと混同していたわけだ。調べてみると、語源は英語の方言jamp(短いコートの意)にーerをつけたものらしい。そしてよりファッション性の高いものをブルゾン(blouson)とフランス語で呼ぶらしい。

 だが古くて重いとはいえ、確か十年以上も前、神田で一万円で買った革ジャンを解体するのは惜しい気もする。何の革だろう? 豚ではないが、牛でもなさそうだ。牛よりずっと柔らかい。すると羊か。いやいや、やっぱり解体しよう。今日買ったものより五倍以上の重さがあるが、暖かさではほとんど同じ。貞房文庫の重装備に使った方が価値がある。今日の午後届いたW・スタイロンの”Darkness Visible”は大江健三郎が読んだペーパーバックではなく、背中だけ布製のハードカバーだったので背革にする必要はないが、背革にしたい本なら山ほどある。

 本当はヨーロッパの旧家などにある背革金文字の豪華本作成の技術を覚えたいのだが、革に金文字はあきらめよう。中身をろくろく読まないで、装丁ばかりに現(うつつ)を抜かすのは、ドン・キホーテのような愛書家(bibliophil)ではなく書痴(bibliomania)と言わねばなるまい。まっここまで来たならどう呼ばれてもいいや。

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佐々木 孝

佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴い父祖の地・福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」の名を冠したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。洗礼名フランシスコ。
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