愛児館と赤木圭一郎

 夕食後のBSテレビで山川豊と中村美津子が古い流行歌を歌っている。山川は赤木圭一郎の映画主題歌「霧笛が俺を呼んでいる」を歌っている。そして赤木圭一郎という懐かしい名前から、彼と間接的な接触があったことを思い出した。あれは昭和四十年(1965年)三月、足立区本木町四丁目にあった通称クリスマス・ヴィレッジ、愛児館でのことである。その頃私は広島での二年間の修練期を終え、上京して上石神井のイエズス会神学院で哲学の勉強を始めるところであった。その春休みを利用して、愛児館での約二週間の実習があった。つまりドイツ人M神父の監視のもと、クリニックの雑用やら社会福祉関係の仕事を手伝うことになったのである。
 
 赤木圭一郎との間接的接触などと思わせぶりな言い方をしたが、要するに彼の父親がその愛児館の医師として週何回か藤沢から通っていただけの話である。赤木圭一郎が日活撮影所内でゴーカートを運転中、乗用車とは逆位置にあるアクセルとブレーキを踏み間違って、時速60キロ以上のスピードで大道具倉庫の鉄扉に激突して死んだのは一九六一年二月のことだったから、私が彼の父親に会ったのは事故後四年ということになる。
 
 石原裕次郎、小林旭につぐ第三の男として人気絶頂のときだったから大きな事件として報じられたはずだが、修道士の卵であった私には、まったく無縁のことだった。しかし実習が始まってすぐ、誰かに彼が赤木圭一郎のお父さんだよ、と教えられたわけだ。ウィキペディアを見ると、圭一郎は1939年生まれ、つまり私と同じ歳で、栄光学園中学校卒とあるから、もしかすると父親はカトリック信者で、そのつながりで愛児館を手伝うようになったのかも知れない。いずれにせよ、息子の突然の死のこともあって、なにか福祉関係への奉仕を考えたのであろう。
 
 二週間という短い実習ではあったが、いろんなことを経験した。一番印象に残っていることは、M神父が実に癖のある男で、一般人の社会福祉の仕事を自分たち宗教関係者のそれより一段低く見ていたことで、われわれ実習生が朝食時にパンにつけるジャムの量まで細かく指図したことと相俟ってあまりいい印象が残っていない。そのころの「修道日記」を見ていると、次のようなA4の謄写版刷り案内が挟まっていた。
 
 「技術をたのしく学ぼう!!――土曜日・日曜日の技術学校――
日本も工業国としてめざましく発展しています。若いときから技術を身につけておけば、学校を卒業して就職するのに有利となるばかりか子供達の将来にもともに役立つことと思います。
 愛児館で設備をととのえ技術を教える学校を開きました。中学生に限らず皆様の申し込みを待っています。 
  場所…本木町四丁目4541
  期日…毎土曜日――午後三時より五時まで
     毎日曜日――午後一時より三時まで
  費用…無料
  課目…電気・木工・木工図面 〇鉄工は近々開始の予定
  先生…上智大学および事業所所員
 申込書は子供に持参させてください。
   父兄各位殿           財団法人上智厚生事業団」
 
 この文面を見ているうち、愛児館のすぐ側が荒川の土手だったこと、そしてその技術学校を手伝っていた関君のつなぎ姿などが次々と浮かんできた。
 
 (つなぎで思い出したが、家のすぐ近くに作業服などを商う店があり、その店先の幟に大きな字で続服と書かれている。何回かその前を通りながら、あれを何と読むのか気になっていたが、昨日、美子の手を引いてH歯科医院から帰って来るとき、あっと気がついた。そうだあれは「つなぎ」と読むんだ!)
            

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佐々木 孝

佐々木 孝 について

佐々木孝(ささき・たかし) 1939年北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。1962年同学科卒業。5年間の修練生活の後、1967年イエズス会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授、1982年教授となる。1984年常葉学園大学でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、東京外国語大学、駒沢大学、法政大学、早稲田大学などでも非常勤講師を務める。2002年定年を前に退職、病身の妻を伴い父祖の地・福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり「モノディアロゴス(Monodiálogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」の名を冠したブログを死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。2018年12月20日、小細胞肺がんのため宮城県立がんセンターにて死去(享年79)。洗礼名フランシスコ。
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