これはもういつものことだが、読むはずだった小林秀雄の『真贋』も、とうとう夜まで読む時間がなく、いまさっき大急ぎで読んだというより見ただけだから、正しく読めたかどうかはまったく自信がない。要するに青山二郎などというプロの目利きに対して、真作だろうが贋作だろうが、自分が美しい、良いと思ったものがすなわち真作だ、というようなことを言っているように思われる。
これを読みながら、テレビの「なんでも鑑定団」とかでレギュラー出演している骨董屋さんのことを思い出した。和服を着て、いかにも目利きといった貫禄をかもし出す男だ。いつも大層な自信で真贋を見分ける、いや少なくとも見分ける振りをする。実に薀蓄が深そうで、言葉に説得力がある。ただ青山という目利きが間違いをしたように、この男(ちょっと名前を忘れた、眼鏡を掛けたちょび髭の男である)もとんでもない間違い、たとえば本当は贋物なのに本物と鑑定したことがあるに違いない。あとから気づいて、青くなったことがあるに違いない。しかしここで慌てないのが、この道のプロの絶対条件である。頑張り通さなければならないのだ。
つまり骨董や古美術の世界は、小林秀雄が言うように信用が最終的な基準になる世界である。だからニセ物を数多く見て修行した後は、自分の目を信じていかなければならない。迷いがあってはならない。小林秀雄のこんな言葉がある。
「伝説[たとえば古美術に付きまとう]といふものを大雑把に定義すれば、外に在る物に根柢を置かず、内に動く言葉に信を置く表現と言へよう…」。いかにも小林秀雄らしい言葉である。つまり自分が良いと判断したものが「良い」のであり、たとえそれが贋作と判明しても、良いと判断したその判断は「真」なのだ。なんだか彼一流のレトリックにひっかかった感なきにしもあらずだが、これはこれで実に明快である。
ところで江藤淳が引き起こした「真贋論争」とやらをわざわざ調べるつもりはない。調べなくても、彼の言わんとしていることはだいたい想像がつく。国家のあり方とか文学のあり方について彼なりに基準というか理想があるのだろう。その審美眼にかなわぬものを否定したいのであろう。その点、彼が師と仰ぐ小林秀雄とある意味では似ているのだが、重大な違いがある。つまり小林秀雄は自分の美の基準に合わぬものを否定などしなかったということ。
この点、彼のもう一人の師(と彼が考える)、夏目漱石と彼の関係でも同じ間違いというか誤解がある。博士号問題である。夏目漱石は博士号を受けることを辞退したが、江藤は未練たらたら博士号にしがみついたことは有名である。それも漱石の嫂(あによめ)のことをテーマに使って。
江藤淳にうらみも何もないが、埴谷さんとの論争も含めて、どうも感心しなかったことがずっと尾を引いているのかも知れない。ただ愛妻の死を追って自殺した彼の最後のことが気の毒には思うが…
プリンターのインクのことから、話はずいぶんと離れてしまったが、また話を戻していこう。ところでHPのプリンターのことだが、今日黒インクが届いてセットしたが密かに恐れていた通り今回も正常に機能しなかった。こんどはインクモジュールがいっぱいになったので取り替えてください、という表示になった。HPのカストマーセンターにようやく電話が繋がって、三千百五十円とかで、その部品を送ってもらうことにした。そういえばこれまでもその表示が出たこともあったのだが、なにせ外国産の機械ゆえ、モジュールがどの部分を指すのか一切の説明がされていないので、こちらとしてはカートリッジのこととばかり早合点していたわけだ。電話で聞いたところによると、説明書も同封するから簡単に取り替えられます、ということだ、信用するしかない。
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