今朝の(と言って、当地ではいわゆる夕刊なるものは無いのであるが)朝日新聞の「ひと」欄に「平和授業をつづける沖縄戦司令官の孫 牛島貞満さん(56)」が載っていた。 祖父牛島満陸軍中将は、激戦地・摩文仁(まぶに)で最後の一兵まで戦えと命じ、そのため十数万人の非戦闘員が砲煙弾雨の中に放置され、そして自らは自決した。
東京の小学校の教員である貞満さんは、この祖父の名前の重さに長い間苦しんだが、1994年、初めて沖縄を訪れ、祖父が自決した壕に入り、辞世の句を読み直した。そしてこう結論する。「天皇のいる本土を守ることを優先した。満は結局、天皇しか見ていなかった。そして軍隊は住民を守らない」と。以来、各地の小学校で平和授業をしているという。
先月、オーストラリア映画『ファーザー』のときも思ったが、戦争を知らない若い世代はともかく、戦争を知るたいていの日本人は、いまだに自分なりの結論を出さないまま今日に至っている。大東亜戦争を美化する狂った頭の持ち主は論外として、あの戦争はああなるしかなかった、後世の人間がとやかく批判するのは間違いと言わないまでも、その権利は無い、という人がいる。もしかすると、こうした意見の持ち主が日本人の多数を占めているのかも知れない。
牛島満はやさしい人だったという。人格者でもあったろう。しかし牛島満の手に何十万という島民の生命が握られていた。このとき、個人的性格の良さなど何の意味もない。つまりたとえ性格的に意地悪い人間であったとしても、島民の生命を守るための決断をしていたとするなら、その方がはるかに有能な指揮官なのである。
牛島貞満さんの記事を読みながら思い出したのは、東条英機とその孫娘由布子のことである(「さん」付けしないのは意図的である)。東条英機もまた優しい人、生真面目で頭のいい人だったのであろう。ネットで調べてみると、文藝春秋から『祖父東条英機「一切を語るなかれ」』が出ているそうである(まったく読む気はないが)。その写真を見ると、「心やさいい夫であり、父であり、祖父だった」との帯が見える。
戦争犯罪者の家族や遺族をイジメたり中傷したりする気はさらさら無いが、由布子のように大きな顔でシャシャリ出るのは許せない(と言って、どうする気も無いが。私の言うのは、本のことだけでなく、ときおりマスコミをにぎわすその発言についてである)。それにしても「一切を語るなかれ」が亡き祖父の言葉だとしたら、本を出す時点ですでに祖父の遺訓を踏みにじったことにはなりませんかね。
君、一度戦争となってしまえば君の言うことなど机上の空論であって……と反論する人がいるかも知れない(いや間違いなくいる)。だからこそ言うのだ。間違っても戦争にならないように英知の限りを尽くさなければならない、と。当時子供ではあったが、皇軍に見捨てられた偽満州帝国の生き残りとして、今も墓標なき何十万の死者たちの代弁者として、残された日々、平和のための何かができれば、と考えている。
「談話室」
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